シンガポール通信ーMRTのトラブル

先週末から、シンガポールのMRT(Mass Rapid Transit)のトラブルが続いている。MRTはシンガポールの大量輸送システムで、日本で言えばJRに当たるだろう。都心部では地下を走っているので地下鉄と呼びたくなるが、郊外では高架鉄道になっているので、地下鉄と呼んでしまうのも無理がある。まあMRTといっておくのが無難である。

現在MRTには、東西線南北線東北線の3本の路線しかないが、シンガポールは小さな国なので主要な部分はこれで結んであり、後はバスやLRTと呼ばれる簡易鉄道でほぼ全島の交通をまかなっている。

MRTは、自動運転を取り入れたり転落防止のための透明の壁がほぼ前駅に設置されているなど、近代化されている事が特徴で、シンガポール人の自慢の1つである。ところがシンガポール人自慢のMRTで、トラブルが相次いでいるのである。

発端は先週15日(木曜)夕方に南北線で停電のため列車の運行が止まり、やく5時間にわたって南北線全線がストップしたことである。一部の乗客は、駅と駅の間でストップした電車からおり、徒歩で駅間で歩かなければならなかったなどのトラブルが生じた。

多分シンガポールでは前代未聞の事件であろう。止まった電車の車内は暗闇で、しかも全くアナウンスもなかったの事である。ドアを開けろと乗務員にいっても、安全のために開けられないの繰り返しで、とうとう乗客が怒って窓ガラスを破り線路におりて駅に向かったとの事である。割られた窓ガラスや、乗客が歩いて駅に向かっている様子などが翌日のテレビのニュース等で何度も報じられた。

私はちょうど当日、夕方から夜にかけて京大のシンガポール同窓会の忘年会が市内で開催されたため、それに出席していた。MRTのトラブルの事は知らなかったので、市内が異様に混んでいたり、バスの乗り場に長い行列ができているのを見たけれども、さすがにシンガポール、クリスマス前はすごい人ごみだとのんきに感心していた。

なんとかタクシーも拾えて帰宅できたのであるが、あとでニュースを見てMRTが不通であった事や、それが原因で市内が異様に混んでいた事を知った。これを知っていたら、とても帰りのタクシーが拾えないだろうと思い、忘年会には出席していたかっただろう。まさに「知らぬが仏」というやつである。

さて翌日16日(金曜)は、日本からの知人の来客があり、夕方オーチャードのレストランで会食をする事になっていた。時間が近づいたので、少し余裕を持って1時間ほど前に大学からタクシーを呼ぼうとしたが、まったくだめである。第一、予約センターへの電話がつながらない。

なんとかつながっても、さんざん待たされたあげく、空いているタクシーがないというアナウンスが流れてくる。ほぼ1時間近くそのような努力を続けたあげく、結局あきらめて知人に電話し、翌日の昼食を一緒にとるという事に変更した。

後でニュースを確認してみたが、この日は特段MRTのトラブルはなかったようである。もちろん金曜夕方は、最もタクシーの捕まりにくい時間帯で、かつクリスマスシーズンであるからというのが大きな理由であろうが、それにしても1時間近く予約センターに電話してもタクシーが捕まらないというのは異常である。前日のMRTのトラブルのために市内に出かける人たちがMRT利用を避けたというのも考えられる理由ではあるまいか。

翌日17日(土曜)朝テレビを見ていると再びMRTが一部不通とのニュースが流れている。しかも知人が宿泊しているマリーナ・ベイ・サンズへ行く路線が不通との事である。前日までのトラブルを思い出し、マリーナ・ベイ・サンズ付近は大変な混乱状況だろうと考え、出かけるのを止めようと考えていた。

ところがお昼前に知人から電話があり、ホテル周辺は至って平常通りとの事である。そこで行く事にしたが、今回はタクシーも簡単に捕まったし、マリーナ・ベイ・サンズのホテル付近もあまり平常と異なる様子は見られなかった。

カジノ近くのレストランで食事をしたのであるが、カジノ周辺もまったくいつもの週末と同じような様子である。知人と一緒に同席したシンガポール人によれば、週末なので混乱がない事や、ホテルやカジノに来る人の多くは自家用車やタクシーで来るので、大きな影響がないのではという事であった。

ところでMRTのトラブルは、それ以降も続いている。日曜もまだ一部不通が残っており、完全に復旧したのは月曜朝からである。ところが今日火曜は再びトラブルが発生し大幅な遅れが生じていると、出勤して来たスタッフ達がぼやいている。

今回の事態は政府もかなり重要視しており、首相自ら原因解明を行うとテレビで声明を出している。物事がスムースに進む事が当然の事として考えられているシンガポールでは、かなりの異常事態としてとらえられている。しかし別の見方をすると、シンガポールも他の都市と同様に不備な点も抱えていることがわかったという意味で、ある種安心できるニュースでもある。